映画『ラストエンペラー』
台湾でも坂本龍一さんを追悼して、いろいろイベントが行われていて、その一環で彼の関連映画も上映されている。
10代で初めてラストエンペラーを見た時、耽美な世界観に魅了された。なんて美しい映画で、そしてジョン・ローンという俳優さんはなんて儚くて、色気があるんだろうと思った。
でも今回改めて見てみて、忘れていた場面も多かったし、印象がずいぶん変わった。
特にかなり最後のほう、町を練り歩く紅衛兵の集団の中に、自分が収監されていた労働改造所の所長を溥儀が見つけたシーン、この場面は今回見直すまで忘れていた。
反革命分子として紅衛兵に引き回されてる所長の元に駆け寄った溥儀が、紅衛兵に向かって「この人は素晴らしい教師なんだ、批判されるのは間違いだ」と言うんだけど、自分自身も時代によってここまで人生を大きく変えられているのに...だからこそか、今時代によって違う運命に入ってしまった所長を助けようとする溥儀が切なかった。
溥儀が亡くなったのが1967年なので、彼自身は巻き込まれなかったと思うけど、もう少し長生きしていたら、さらに文革*1という時代が彼を待っていたんだと思うと、心が締め付けられる気がする。
この後半の印象が強くて、前半の煌びやかな世界を少し忘れかけるほどだった。
ずっと出たかった紫禁城の外の世界に出られた後の溥儀の人生が、畳みかけるように過酷で、もしかしたらあのまま出られないほうが幸せだったんじゃないかとさえ思った。
映画の前半で、外の世界はどんどん変わっていっているのに、何百年と同じ生活を続けているタイムカプセルの中のような紫禁城から出られない溥儀。この時代に皇帝になる運命だというだけで、すでに自分の意思を働かせる余地なんてない人生だったのに。
人生って、自分で決められる部分なんて本当にほんの少しだ。
いやもしかしたら自分で決めてる気がしているだけなのかも。今の行動や選択がどういう意味を持って、自分の人生がどういう方向に行くかなんて人生を終えた時にしかわからない。
それでも自分で決めていると誰でも思いたいものだと思う。それなのに、あなたは自分の人生を自分で決めることはできないと宣言されているような人生を送った溥儀。
ジョン・ローンがとても美しいのと、衣装がとにかく豪華で凝っているし、うっとりするような場面が多いので、最初に見た時には10代だったこともあって、ただただ魅惑されるばかりだったけど、見直すとそういう場面もさることながら、歴史や人間の人生とはというほうに大きく興味を引かれた。
歳を取ると?いや、経験を重ねるとと言っておこう...見方も変わるんだなぁ。
今見てもジョン・ローンはもちろん息を飲むほど色気があったけど。そして陰もあるところが彼の魅力で、彼が溥儀を演じたことで、本物の溥儀にもどうしてもジョン・ローンを重ねてしまう。でも彼が溥儀を演じたからこそ、この映画もここまで人気が出たと思わずにはいられない。
私の中では『覇王別姫』、『花樣年華』、『ラスト、コーション』といった映画もこのラストエンペラーと同じ耽美系のカテゴリーに入ってたんだけど、今回、けっこう印象が変わったので、若い時に見たこれらの映画も、もう一度見ると違う見方ができるかもしれないなぁ。
特に『覇王別姫』はたしかやはり文化大革命によって人生が翻弄される話だったから。
ラストエンペラー以外は全部香港映画だなぁ、この頃の香港映画の退廃的で耽美な感じは本当に魅力的だったんだよね。と話が大きくズレてしまったので、感想はこの辺りで。
この映画が上映されている華山1914というエリアも日本統治時代の酒工場をリノベしている、レトロな感じがとても良くて、好きな場所なんだけど、こんな映画を見た後外に出たら、ちょっと不思議な気がしていろいろ考えてしまった。
ここだけでなく日本統治時代の建造物がたくさん残っている台湾もまた複雑な歴史の中で翻弄された人がたくさん居た場所だ。
台湾だけでも、また過去だけでもなく、いつだって誰もがみんな大なり小なり翻弄されている。